コガタミミズ

 フトミミズ科フクロフトミミズ属コガタミミズ Metaphire florea (Ishizuka, 1999)

Pheretima florea Ishizuka, 1999b: 52; Nakamura, 1999: 62; 石塚, 2001: ##; 上平, 2013: 43; 南谷, 2016: ##.

  Pheretima florea ? 上平, 2006: 40.

  Amynthas florea [sic] 上平, 2016b: 21.

  Amynthas floreus 南谷, 2017: 15, 2021: 16.

タイプ標本

タイプ産地:Mt. Daibosatu-toge(山梨県甲州市 大菩薩峠)

タイプ標本所在地:ホロタイプ 国立科学博物館 (NSMT-An 257)

         パラタイプ 国立科学博物館 (NSMT-An 258)

形態

<外部形態>

 全長 60–80 mm、体幅 3.0–3.3 mm。体節数 73–90。

 体色は背面は明褐色で、腹面は灰白色。

 剛毛は第 7 体節で 36–44 本、第 20 体節で 46–48 本。

 第一背孔は第 12/13 体節間溝。

 受精嚢孔は 3 対で、第 5/6/7/8 体節間溝に開口する。受精嚢孔間距離は体周の約 1/2。環帯は第 14–16 体節を占める。雌性孔は 1 つで、第14体節の腹面中央に開口する。雄性孔は陥没型で、大きな菊花状。雄性孔間距離は体周の約 1/3。性徴を欠く。

 

<内部形態>

 隔膜は第 5/6/7/8 体節間でやや厚く、第 8/9/10 体節間で欠き、第 10/11/12/13/14 体節間で繊細。

 は第 15 体節から開始する。腸盲嚢は指状型で、6 本の小嚢に分かれ、第 27 体節に開口し、前方に 4–5 体節分伸びる。

 受精嚢は大きく、3 対で、第 6–8 体節にある。主嚢はシャベル型で、導管を持つ。副嚢は長く捻れている。貯精嚢は大きく、第 11–12 体節に広がる。摂護腺は第 17–22 体節に広がり、雄性孔につながっている。生殖腺を欠く。

 

 

分布

 栃木県(上平, 2006; 南谷, 2017, 2021)、埼玉県(南谷, 2016)、山梨県(Ishizuka, 1999b; 石塚, 2001; 上平, 2013)、静岡県(上平, 2016b)で記録されている。

 

 なお、山梨県では釜無川と富士川を結ぶ線の東側でしか発見されないため、これらの河川が分布の障壁になっている可能性が指摘されている(上平, 2013)

 一方で、栃木県では那須・日光・足尾山地だけでなく八溝山地でも発見されている。今後、群馬県や福島県を含む中部山岳〜南東北での分布の検証が必要であろう。

図 これまでに出版された文献に基づく、コガタミミズの分布確認地点。


備考

 Ishizuka (1999b) は、本種の和名として「コガタミミズ」を提案し、石塚 (2001) や石塚・皆越 (2014) はこの名称を使用している。一方、Nakamura (1999) は Amynthas parvicystis の和名として「コガタミミズ」を提案しているが、Ishizuka (1999b) は3月に、Nakamura (1999) は12月に出版されているため、先取権のルールを適用すると本種の和名がコガタミミズとなり、Amynthas parvicystis には新称が必要である。

 

 Blakemore(2003, 2010a, 2012b)は、本種をフツウミミズのシノニムとしている。

 小型であること、受精嚢の形が異なること、高標高域にしか出現しないこと、mtDNAのCOI領域の解析で系統学的位置が全く異なることから、フツウミミズとは別種とすべきであり、今後の検証が必要である。

引用文献

Blakemore RJ, 2003. Japanese earthworms (Annelida: Oligochaeta): A review and checklist of species. Organisms Diversity and Evolution 11: 1-43.

Blakemore RJ, 2010a. Saga of Herr Hilgendorf's worms... In: Pavlíček T, Cardet P, Coşkun Y, Csuzdi C, (eds.), Advances in Earthworm Taxonomy IV (Annelida: Oligochaeta). Proceedings of the 4th International Oligochaeta Taxonomy Meeting Diyarbakir, 20-24 April, 2009. Zoology in the Middle East Supplementum 2. Kasparek Verlag, Heidelberg. pp. 7-22.

Blakemore, R.J., 2012b. Japanese earthworms revisited a decade on. Zoology in the Middle East 58 suppl 4: 15-22.

Ishizuka, K., 1999b. New species of the genus Pheretima s. lat. (Annelida, Oligochaeta, Megascolecidae) from Tokyo, Japan- species with manicate intestinal caeca. Bulletin of the National Science Museum (Japan). Series A. Zoology 25(1): 33-57.

石塚小太郎, 2001. 日本産フトミミズ属 (Genus Pheretima s. lat.) の分類学的研究. 成蹊大学一般研究報告 33(3): 1-125.

上平幸好, 2006. 関東地方における陸棲貧毛類の調査報告II. ―栃木県で採集された種類と分布―. 函館短期大学紀要 32: 39-45.

上平幸好, 2013. 中部地方における陸棲貧毛類の調査報告 II. ー山梨県で採集された種類と分布ー. 函館短期大学紀要 39: 41-48.

上平幸好, 2016b. 中部地方における陸棲貧毛類の調査報告 V. ー静岡県で採集された種類と分布ー. 函館短期大学紀要 42: 19–29.

南谷幸雄, 2016. 秩父地方の大型陸棲貧毛類(ミミズ)相. 埼玉県立自然の博物館研究報告 10: 45-52.

南谷幸雄, 2017. 日光の陸棲大型貧毛類(ミミズ)相. 栃木県立博物館研究紀要―自然― (34): 13-20.

南谷幸雄, 2021. 益子町のミミズ相. 栃木県立博物館研究紀要―自然― (38): 15–18.

Nakamura Y, 1999. Checklist of earthworms of Pheretima genus group (Megascolecidae: Oligochaeta) of the world. Edaphologia 64: 1-78.