ミタマミミズ
Pheretima soulensis Kobayashi, 1938b: 131; Song & Paik, 1970a: 11, 1970b: 102, 1971: 195, 1973: 9; Ishizuka, 1999a: 65; 上平, 2010: 38, 2014b: 39, 2016a: 13; 南谷ら, 2015: 83; Blakemore et al., 2015: 5; 伊木・大場, 2022: 42.
Metaphire soulensis Blakemore, 2010a: 20, 2012b: 19, 2013: 39.
Amynthas soulensis 上平, 2017a: 59, 2020a: 2.
Pheretima shinkeiensis Kobayashi, 1938b: 134.
Pheretima sp. 2 Song & Paik, 1969: 17.
Pheretima aokii Ishizuka, 1999b: 36; 伊藤, 2013: 437; 上平, 2014a: 29, 2015a: 41; 石塚ら, 2014: 31; 柳戸・柳戸, 2016: 39.
Amynthas aokii 上平, 2016b: 21, 2017b: 69, 2020b: 12.
Amynthas dageletensis Hong & Kim, 2005: 132.
Amynthas cf. chiakensis Blakemore et al., 2015: 7.
タイプ標本
基産地:Koryo, Keiki-do (光陵、京畿道、韓国)
Keijo, Korea (ソウル、韓国)
タイプ標本所在地:不明
形態
<外部形態>
全長 50-125 mm (51-86 [原記載]、50-125 [Blakemore et al., 2015],60-125 [Ishizuka, 1999b; Ishizuka et al., 2000b], 70–82 [Blakemore et al., 2015])、体幅 3.5-6.5 mm (最大 5 [原記載]、3.5–6.0 [Ishizuka, 1999b], 3.5-6.5 [Ishizuka et al., 2000b])、体節数 70-105 (70–105 [Ishizuka, 1999b; Ishizuka et al., 2000b]、83-95 [原記載])。第一背孔は第 12/13 体節間溝 (原記載; Ishizuka, 1999b)。
剛毛は、第 7 体節で 41-47 本、第 20 体節で 45-45 本。
体色は、背面は赤褐色で、腹面は黄灰色 (Ishizuka, 1999b)。フォルマリン浸漬標本では背面は黄色から赤褐色で、腹面はずっと淡色、環帯はチョコレート色もしくは赤茶色。
環帯は第 14-16 体節を占め、剛毛を欠く。受精囊孔は 2 対で、第 6/7/8 体節間溝にあり、受精囊孔間距離は体周の 4/11 (原記載) または 2/5 (Ishizuka, 1999b)。受精嚢はしばしば一部欠ける (Blakemore et al., 2015; 柳戸・柳戸, 2016).埼玉県外秩父地域では74個体中、受精嚢孔を完全に欠くものが22個体(30%)いたのに対し、2対の受精嚢孔を持つものは31個体(41%)でしかなかった (柳戸・柳戸, 2016)。また、2個体は第5/6/7体節間溝に受精嚢孔を持っていた (柳戸・柳戸, 2016)。受精囊孔間剛毛は第 6 体節で 18-19 本、第 7 体節で 19-21 本、第 8 体節で 20-23 本。第 18 体節の体側に雄性孔状の性的斑紋がある.摂護腺や導管を欠き(原記載; Blakemore et al., 2015)、精管は盲管になる。性的斑紋は産地によって若干異なり、光陵の標本では円形平板状に突出しているが、京城の標本では体表からくぼみの中に陥没していた。性的斑紋の中には、一つのやや大きな丸い斑と、その周囲に 3-6 個の小さな性徴がある。埼玉県外秩父地域では、性的斑紋の中の性徴は1〜20個まで変異があった (柳戸・柳戸, 2016)。受精嚢全欠の個体は、性徴の数が少なく、1〜9個の範囲であった (柳戸・柳戸, 2016)。一方で、2対の受精嚢孔を持つものは、受精嚢孔全欠のものに比べて性徴の数が多い傾向があった (柳戸・柳戸, 2016)。性的斑紋間の距離は、体周の 1/2 弱。性的斑紋の直径は、第 18 体節の 3/5 ほど。性的斑紋間の剛毛は 15-16 本。
<内部形態>
隔膜は第 5/6/7 体節間溝は厚く、第 10/11/12/13 体節間溝はやや厚く、第 7/8 体節間溝は薄く、第 8/9/10 体節間溝では欠く。
腸管は第 15 体節から始まり、腸盲嚢は第 27 体節に開始し、指状形で、5−6 本の小嚢に別れ (原記載; Ishizuka, 1999b; Ishizuka et al., 2000b)、第 23 体節まで (原記載)、または 4–5 体節分前に (Ishizuka, 1999b) 伸びる。
第 10 体節の心臓を欠く。
受精囊は第 7-8 体節にあるが、極めて痕跡的 (原記載)。東京では主嚢はシャベル型だが、しばしば発達が悪く、欠如することもある (Ishizuka, 1999b)。副嚢を欠く (原記載; Ishizuka, 1999b)。貯精嚢は第 11-12 体節にある。個体によっては貯精嚢が第10–14体節まで広がる (Ishizuka, 1999b)。摂護腺や導管は完全に欠く。性徴の体内器官として、瓶状単生殖腺がある。
Pheretima soulensis (=Metaphire soulensis) の形態と受精囊の変異(原記載図) (Kobayashi, 1938b, p. 132, fig. 8 より)
Pheretima shinkeiensis (=Metaphire soulensis) の雄性孔域と受精囊(原記載図) (Kobayashi, 1938b, p. 135, fig. 9 より)
分布
北海道から九州、対馬、朝鮮半島、鬱陵島に分布する (Kobayashi, 1938b; 小林, 1941c, g; Song & Paik, 1969, 1970b, 1971, 1973; Ishizuka, 1999b; Ishizuka et al., 2000b; 石塚, 2001; 坂井, 2004; 内田・金子, 2004; 上平, 2006, 2007, 2008, 2010, 2011, 2012, 2014a, b, 2015a, b, 2016a, b, 2017a, b, 2020a, b; 南谷ら, 2007, 2008, 2010a, b, 2012, 2013, 2015; Minamiya et al., 2012; 伊藤, 2013; Blakemore et al., 2015; 南谷, 2016, 2017, 2021; 柳戸・柳戸, 2016; 小倉ら, 2020)。
東京都では低地〜丘陵地で記録されており、奥多摩の記録は見当たらないが (Ishizuka, 1999b; 石塚, 2001)、最近では奥多摩で普通に見つかるミミズの一種である (南谷, 未発表データ)。最近になって奥多摩に分布が拡大したのか不明であるが、興味深い現象の一つである。
図:これまでに出版された文献に基づく、ミタマミミズの分布確認地点
国外では、韓国に分布する (Kobayashi, 1938b; Song & Paik, 1969, 1970a, 1970b, 1971, 1973; Hong & Kim, 2005; Blakemore et al., 2015)。
生態
富山県では低地でのみ記録された (上平, 2014a)。
備考
和名は、Nakamura (1999) に基づく。Kobayashi (1938b) は命名する際に学名の由来を明示していないが、魂という意味の "soul" ではなく、タイプ標本が得られたソウル "seoul" だと考えられる。Nakamura (1999) は学名に基づいて新称を提案したが、魂という意味だと解釈されたミタマミミズという和名は適していない (南谷, 私見)。
なお、和名としては Ishizuka (1999b) が新種記載した aokii の和名であるアオキミミズの方が先に発表されている (Ishizuka, 1999b)。和名に先主権のルールはないが、アオキミミズとする方が良いかもしれない。
本種を記載した Kobayashi (1938b) は、同一論文中で shinkeiensis を記載した。この 2 種は極めてよく似ているが、雄性孔状の性徴とはサイズの異なる孔は見当たらず、輸精管の先端は膨らまないとされている。ただし、shinkeiensis の新種記載に用いられた個体は 1 個体だけであり、個体変異が不明であること、この中間形態についての検討がなされていない。Blakemore (2003 addenda) により本種のシノニムとされている。
dageletensis は Hong & Kim (2005) により記載されたが、Blakemore (2010a) は疑問符付きで本種のシノニムとし、さらにカギ括弧と疑問符付きで独立種として記述している。ただし、形態学的に識別できないために、本種のシノニムとすべきであろう。
chiakensis は,Blakemore et al. (2015) により疑問符付きで本種のシノニムとされた.ただし,同じ文献内で Amynthas cf. chiakensis が掲載されている.Blakemore et al. (2015) によって解析されたmtDNAのCOI領域は両者が99%一致したことが報告されており,本種のシノニムであることを支持している.
皇居において1996〜1999年に行われた調査と2009〜2012年に行われた調査を比較すると、本種が明らかに減少していたことが報告されている (石塚ら, 2014)。その要因については明らかにされてはいないが、タヌキなどの中型哺乳類による捕食の影響の可能性が挙げられている (石塚ら, 2014)。
引用文献
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