イイヅカミミズ
Perichaeta iizukai Goto & Hatai, 1899: 14.
Amyntas izukai [sic] Beddard, 1900: 625.
Pheretima iizukai Michaelsen, 1900: 274; 畑井, 1931: 188; 大淵, 1939: 402; 小川, 1944: 80; 大淵・山口, 1947: 1364; 上平, 1973a: 56, 2013: 43; 落合, 1988: 418, 1989: 500; Ishizuka, 1999a: 61.
Metapheretima iizukai Sims & Easton, 1972: 233.
Polypheretima iizukai Easton, 1981: 61.
Amynthas iizukai 舘野他, 2021: 35.
Pheretima sp. no. 9 大野, 1981b: 329.
タイプ標本
基産地:Musasi (現:東京都青梅市)
タイプ標本所在地:不明
形態
<外部形態>
体長 235-450 mm (235 [原記載]、263-313 [落合, 1989]、275 [落合, 1988]、450 [小川, 1944])、体幅 12-15 mm (12-15 [原記載]、12.5 [落合, 1988]、13-14 [落合, 1989])、体節数 79-137 (137 [原記載]、79-119 [落合, 1989]、132 [落合, 1988])、湿重 18.6-28.4 g (18.6 [落合, 1988]、19.5-28.4 [落合, 1989])。
体前方へ向かうほど剛毛数は少なくなり、第 4 体節で 34 本、第 5 体節で 40 本、第 6 体節で 42 本、第 7 体節で 42 本、第 8 体節で 50 本、より後方では 60 本程度。第一背孔は第 12/13 体節間溝 (Goto & Hatai, 1899; 落合, 1988)。
環帯は第 14-16 体節を占め、剛毛を欠く。受精嚢孔は 4 対で、第 5/6/7/8/9 体節間溝に存在するが、視認は困難。受精嚢孔域には性徴を欠く。雄性孔は第 18 体節に存在し、突起型で、雄性孔間剛毛は 8-14 本 (8 [原記載]、14 [落合, 1988])。第 19-26 体節 (19-23 [Goto & Hatai, 1899; Ohfuchi, 1937b; 落合, 1989]、19-24 と 25右側のみ [落合, 1988]、19-26 [Ohfuchi, 1937b])の剛毛線より後ろの雄性孔と同一線上に、直径 1 mm 程度の性徴が存在する (Ohfuchi, 1937b; 大淵, 1939)。性徴の頂部は凹み、大きな室状を形成する (大淵, 1939)。
<内部形態>
隔膜は 4/5/6/7/8、10/11/12/13 で厚く、8/9/10 で欠く。腸管は第 15 体節から始まり、原記載では腸盲嚢を欠くとされたが (Goto & Hatai, 1899)、Ohfuchi (1937b) は第 27 体節に存在するとしている。
受精嚢は 4 対で、第 6-9 体節に存在する。主嚢は長く、嚢状部の先端は尖る。嚢状部は長さ 4-5 mm、幅 3.3 mm、導管の長さ 3.5-3.8 mm (Ohfuchi, 1937b)。副嚢は短い。貯精嚢は第 11-12 体節に存在する。卵巣は比較的大きい。卵嚢を欠く。摂護腺は小さく、小葉状で、第 18 体節に限られる (Goto & Hatai, 1899)。なお、Ohfuchi (1937b) は摂護腺は大きく、7 体節分を占めるとしている。胞状生殖腺はあまり発達しない (Ohfuchi, 1937b)。
Pheretima iizukai (=Amynthas iizukai) の形態 (Ohfuchi, 1937b p. 40, fig. 3 より)
Perichaeta iizukai (=Amynthas iizukai) の雄性孔と性徴 (原記載) (Goto & Hatai, 1899 p. 14, fig. 1 より)
Perichaeta iizukai (=Amynthas iizukai) の受精囊 (原記載) (Goto & Hatai, 1899 p. 14, fig. 2 より)
分布
日本固有種であり、関東地方〜中部地方(栃木県、埼玉県、東京都、山梨県、神奈川県、新潟県、静岡県)でのみ確認されている。
なお、形態が酷似した種が多いため、今後の再検討が必要であろう。
図:これまでに出版された文献に基づく、イイヅカミミズの分布確認地点.
生態
山道で、日中にも這い出しているのを時々見ることが出来る (畑井, 1931)。
備考
学名・和名の由来は、本種の標本を寄贈した東京帝国大学動物学教室の飯塚啓氏に基づき、畑井 (1931) がイイヅカミミズ (飯塚ミミズ) として和名を提唱している。
原記載では基産地をMusashiとのみ記述しているが、記載者の一人である畑井新喜司教授は後に、タイプ標本は青梅付近で採集されたことを明記している (畑井, 1931a, b)。
Sims & Easton (1972) は本種の原記載に腸盲嚢の記述がないことから Metapheretima 属とし、その後腸盲嚢を各種について再検討した改定したEaston (1979, 1981) は Polypheretima 属とした。しかし、Blakemore (2003) はオオフトミミズのシノニムとし、その後も同一の見解をとっている (Blakemore, 2008d, 2012b)。オオフトミミズとの識別については、性徴の位置やサイズ、摂護腺、貯精嚢、受精囊の形態の違いが指摘されているが (Ohfuchi, 1937b)、再検討が必要である。
大野 (1981b) が未記載種として掲載したタキグチミミズ Pheretima sp. no. 9 は、記述された形態形質や図から、本種だと考えられる。
シノニムリスト
Perichaeta iizukai Goto & Hatai, 1899: 14. [形態記載]
Amyntas izukai [sic] Beddard, 1900: 625.
Pheretima iizukai Michaelsen, 1900: 274. [同定形質のみ]
Pheretima iizukai Michaelsen, 1903: 97.
Pheretima iizukai 畑井, 1931: 188 イイヅカミミズ (新称). [同定形質のみ]
Pheretima iizukai Ohfuchi, 1937b: 39. [同定形質のみ]
Pheretima iizukai 大淵, 1939: 402. [記述のみ]
Pheretima iizukai 小林, 1941c: 260. [記述のみ]
Pheretima iizukai 小川, 1944: 80 イヒヅカミミズ. [記述のみ]
Pheretima iizukai 大淵・山口, 1947: 1364. [同定形質のみ]
Metapheretima iizukai Sims & Easton, 1972: 233. [記述のみ] (Sep ?, 1972)
Pheretima iizukai 上平, 1973a: 56 イイズカミミズ. [同定形質のみ] (?, 1973)
Polypheretima iizukai Easton, 1981: 61. [同定形質のみ] (Apr 30, 1981)
Pheretima sp. 9 大野, 1981b: 329. タキグチミミズ [形態形質]
Pheretima iizukai 落合, 1988: 418 イイヅカミミズ. [同定形質のみ] (Sep, 1988)
Pheretima iizukai 落合, 1989: 500 イイヅカミミズ. [同定形質のみ] (Nov, 1989)
Pheretima iizukai Ishizuka, 1999a: 61. [記述のみ]
Pheretima iizukai 上平, 2013: 43. [記述のみ]
Amynthas iizukai 舘野ら, 2021: 35 [記述のみ] (Mar. 31, 2021)
引用文献
Beddard, F.E., 1900. A revision of the earthworms of the genus Amyntas (Perichaeta). Proceedings of the Zoological Society of London 69(4): 609-652.
Goto, S., Hatai, S., 1899. New or imperfectly known species of earthworms. No. 2. Annotationes Zoologicae Japonenses 3: 13-24.
畑井新喜司, 1931. みみず. 改造社. 218 pp. (復刻 みみず. 1980年
サイエンティスト社より)
Ishizuka, K., 1999a. A review of the genus Pheretima s. lat. (Megascolecidae) from Japan. Edaphologia (62): 55-80.
上平幸好, 1973a. 日本産陸棲貧毛類フトミミズ属(Genus Pheretima), 種の検索表. 函館大学論究 7: 53-69.
上平幸好, 2013. 中部地方における陸棲貧毛類の調査報告 II. ー山梨県で採集された種類と分布ー. 函館短期大学紀要 39: 41-48.
小林新二郎, 1941c. 四国、中国、近畿及中部諸地方の陸棲貧毛類に就て. 動物学雑誌 53(5): 258-266.
Michaelsen, W., 1900. Oligochaeta. Das Tierrich 10: 1-575.
Michaelsen, W., 1903. Die Geographische Verbreitung der Oligochaeten. Friedländer & Sohn, Berlin.
落合威彦, 1988. イイヅカミミズを新潟県で採集. 採集と飼育 50(9): 418-419.
落合威彦, 1989. 高尾山のイイヅカミミズ. 採集と飼育 51(11): 500-501.
Ohfuchi, S., 1937b. On the species possessing four pairs of spermathecae in the genus Pheretima together with the variability of some external and internal characters. Saito Ho-on Kai
Museum of Natural History, Research Bulletin 12: 31-136.
小川文代, 1944. みみずの観察. 創元社, 東京. 87 p.
大淵眞龍, 1939. 日本産 Pheretima 属に於ける Genital Papillae の位置及び数の変異とその組織学的構造. 吉田博士祝賀記念誌 pp. 392-413.
大淵眞龍, 山口英二, 1947. 環形動物貧毛綱. In: 内田清之助 (ed.), 新日本動物図鑑. 北隆館, 東京. pp. 1352-1371.
大野正男, 1981b.
大井川源流部原生自然環境保全地域の土壌動物、主として陸棲ミミズ類. In: 静岡県 (ed.), 大井川源流部原生自然環境保全地域調査報告書 pp. 321-331.
舘野鴻, 吉田譲, 齋藤理, 秋山幸也, 2021. 絵本『がろあむし』の取材で得られた相模原市内の地下間隙の生物について. 相模原市立博物館研究報告 (29): 34–43.