モリミミズ
Pheretima servinus [sic] 畑井, 1931: 193; 大淵・山口, 1947: 1359; 上平, 1973a: 59.
Pheretima servina Hatai & Ohfuchi, 1937: 1; 大淵, 1938b: 178, 1939: 402; Ishizuka, 1999a: 65; 南谷ら, 2015: 86.
Metaphire servinus [sic] Sims & Easton, 1972: 238.
Metaphire servina Easton, 1981: 59; Blakemore, 2003: 30, 2008d: 118, 2010a: 20, 2012b: 19.
[non servina]
? Pheretima servinus [sic] 安立・大野, 1964: 404.
タイプ標本
基産地:宮城県石巻市田代島、網地島、金華山、牡鹿郡女川町出島、足島、平島、江島、気仙沼市大島、仙台市国見峠、青森県青森市浅虫
タイプ標本所在地:不明
形態
<外部形態>
全長 84-121 mm で平均 101 mm、体幅 5.2-6.8 mm で平均 5.9 mm、体節数 67-100 で平均 88.7。ただし、青森市浅虫に比べて、宮城県平島の方が全長も体節数も大きかった (Hatai & Ohfuchi, 1937)。第一背孔は第 12/13 体節にある。
体色は背面は濃赤褐色で、腹面は乳白色。背面の色は、他のミミズよりも濃厚 (畑井, 1931)。環帯は暗黄色。
剛毛は、第 7 体節で 50-63 本で平均 55 本、第 20 体節で 57-68 本で平均 62 本。
受精囊孔は 2 対で、第 6/7/8 体節間溝にあり、時に深い陥没状で目立つ。雄性孔は第 18 体節のやや第 19 体節寄りにあり、盛り上がった楕円形の上にあり、剛毛線より後方に位置する。雄性孔は星状型に陥没する。雄性孔間剛毛は 10-12 本で平均 11 本。受精囊孔域には、性徴を欠く。雄性孔の楕円形の盛り上がりに、大きな円形の性徴があり、直径 0.6-0.8 mm で平均 0.7 mm。
<内部形態>
腸盲嚢は第 27 体節にあり、先端は第 23 体節に達し、それぞれ 6 本の小嚢に別れる。
受精囊の主嚢はやや平たい洋梨形で、長さ 4 mm、太さ 3 mm。導管は主嚢とほぼ同長かやや短い。副嚢は細長く、ネジ曲がらない。貯精嚢はよく発達し、第 11-12 体節にあり、後部は第 14 体節まで広がる。摂護腺はとても大きく 8-9 体節分を占める。摂護腺のすぐ前には、大きな円形の生殖腺がある。この生殖腺は小さな瓶状複生殖腺のような場合と、胞状生殖腺に見える場合がある。
Pheretima servina (=Metaphire servina) の雄性孔域(原記載図) (Hatai & Ohfuchi, 1937 p. 6, fig. 1-2 より)
Pheretima servina (=Metaphire servina) の受精囊孔(原記載図) (Hatai & Ohfuchi, 1937 p. 6, fig. 1-1 より)
Pheretima servina (=Metaphire servina) の受精囊(原記載図) (Hatai & Ohfuchi, 1937 p. 6, fig. 2-1 より)
Pheretima servina (=Metaphire servina) の腸盲嚢(原記載図) (Hatai & Ohfuchi, 1937 p. 6, fig. 1-3 より)
Pheretima servina (=Metaphire servina) の摂護腺と生殖腺(原記載図) (Hatai & Ohfuchi, 1937 p. 6, fig. 1-5 より)
Pheretima servina (=Metaphire servina) の摂護腺(原記載図) (Hatai & Ohfuchi, 1937 p. 8, fig. 2-2 より)
分布
Hatai & Ohfuchi (1937) により記録された宮城県数地点と青森県浅虫でしか記録されていない。2015 年になって、青森県 3 地点における分布情報が報告された (南谷ら, 2015)。
なお、上平 (2001a, 2002a, b, 2003 a-c, 2004c) や内田・伊原 (2004) による東北地方における広範な調査では、本種が確認されていない。ただし未発表ではあるが、本種と考えられる種は青森県から宮城県にかけて広く採集されており、今後の検討が必要である (南谷, 未発表データ)。
伊豆大島 (畑井, 1931)、神奈川県丹沢 (足立・大野, 1964) でも採集された記録があるものの、備考の項目で後述するように新たな標本が採集されるまでは参考記録にすべきである (南谷, 私見)。
図:これまでに出版された文献に基づく、モリミミズの分布確認地点
生息環境
クロマツの落葉が厚く積もった場所に生息するが、農耕地には出現しない (Hatai & Ohfuchi, 1937)。
生態
9 月中旬になっても、多くの個体が未だに環帯が完成しておらず、9月末にさえ未成熟の個体が存在することが報告されている (Hatai & Ohfuchi, 1937)。腸盲嚢の形態から表層性種と考えられるが、同所的に生息する他の表層性ミミズは 7〜8 月に環帯が完成するため、特殊な生態であると考えられる。Hatai & Ohfuchi (1937) は小島嶼に分布する種の特徴である可能性を指摘している。
備考
畑井 (1931) は和名としてモリミミズ (森ミミズ) を提唱した。なお、この時に n. sp. として学名とともに新種であることを示したが、記載は不十分であり国際動物命名規約に基づく新種記載とは認められない。このため、Hatai & Ohfuchi (1937) が本種の新種記載であるとみなすことが出来る。
なお、安立・大野 (1964) は本種とみなせるものを神奈川県丹沢で採集したと報告しているが、その後の研究で東北地方から関東地方にかけての地域で全く採集されていない上、安立・大野 (1964) に形態の記載がなく、標本の所在も不明であるためにその実態は不明である。このため、今後新たにこの地域で採集されるまでは参考記録とした方が良い (南谷, 私見)。
シノニムリスト
Pheretima servinus [sic] 畑井, 1931: 193 モリミミズ (新称). [同定形質のみ]
Pheretima servina Hatai & Ohfuchi, 1937: 1. [形態形質]
Pheretima servina 大淵, 1938b: 178. [記述のみ]
Pheretima servina 大淵, 1939: 402. [記述のみ]
Pheretima servinus [sic] 大淵・山口, 1947: 1359. [同定形質のみ]
Metaphire servinus [sic] Sims & Easton, 1972: 238. [記述のみ] (Sep ?, 1972)
Pheretima servinus 上平, 1973a: 59 モリミミズ. [同定形質のみ]
Metaphire servina Easton, 1981: 59. [同定形質のみ] (Apr 30, 1981)
Pheretima servina Ishizuka, 1999a: 65. [記述のみ]
Metaphire servina Blakemore, 2003: 30. [同定形質のみ] (?, 2003)
Metaphire servina Blakemore, 2008d: 118. [同定形質のみ] (Dec ?, 2008)
Metaphire servina Blakemore, 2010a: 20. [記述のみ] (Feb 28, 2010)
Metaphire servina Blakemore, 2012b: 19. [記述のみ] (Feb 28, 2012)
Pheretima servina 南谷ら, 2015: 86. [同定形質のみ] (Mar 2015)
[non servina]
? Pheretima servinus [sic] 安立・大野, 1964: 404.
引用文献
安立綱光, 大野正男, 1964. 丹沢山塊の陸棲貧毛類予報. In: 神奈川県 (ed.) 丹沢大山学術調査報告書 pp 403-407, 神奈川県.
Blakemore, R.J., 2003. Japanese earthworms (Annelida: Oligochaeta): A review and checklist of species. Organisms Diversity and Evolution 11: 1-43.
Blakemore, R.J., 2008d. A review of Japanese earthworms after Blakemore (2003). In: Ito MT, Kaneko N, (eds.), A Series of Searchable Texts on Earthworm Biodiversity, Ecology and Systematics from Various Regions of the World, 2nd Edition (2006) and Supplemental. COE soil Ecology Research Group, Yokohama National University, Japan. CD-ROM Publication.
Blakemore, R.J., 2010a. Saga of Herr Hilgendorf's worms... In: Pavlíček T, Cardet P, Coşkun Y, Csuzdi C, (eds.), Advances in Earthworm Taxonomy IV (Annelida: Oligochaeta). Proceedings of the 4th International Oligochaeta Taxonomy Meeting Diyarbakir, 20-24 April, 2009. Zoology in the Middle East Supplementum 2. Kasparek Verlag, Heidelberg. pp. 7-22.
Blakemore, R.J., 2012b. Japanese earthworms revisited a decade on. Zoology in the Middle East 58 suppl 4: 15-22.
Easton, E.G., 1981. Japanese earthworms: A synopsis of the Megadrile species (Oligochaeta). Bulletin of the British Museum Natural History (Zoology) 40(2): 33-65.
Ishizuka, K., 1999a. A review of the genus Pheretima s. lat. (Megascolecidae) from Japan. Edaphologia (62): 55-80.
畑井新喜司, 1931. みみず. 改造社. 218 pp. (復刻 みみず. 1980年
サイエンティスト社より)
Hatai S, Ohfuchi S, 1937. On one new species of earthworm belonging to the genus Pheretima from north-eastern Honshu, Japan. Res. Bull. Saito Ho-on Kai Mus. 12: 1-11.
上平幸好, 1973a. 日本産陸棲貧毛類フトミミズ属(Genus Pheretima), 種の検索表. 函館大学論究 7: 53-69.
上平幸好, 2001a. 東北地方における陸棲貧毛類の調査報告Ⅰ. ―青森県で採集された種類と分布―. 函館大学論究 32: 61-72.
上平幸好, 2002a. 東北地方における陸棲貧毛類の調査報告Ⅱ. ―秋田県で採集された種類と分布―. 函館大学論究 33: 15-24.
上平幸好, 2002b. 東北地方における陸棲貧毛類の調査報告Ⅲ. ―岩手県で採集された種類と分布―. 函館大学論究 33: 25-34.
上平幸好, 2003a. 東北地方における陸棲貧毛類の調査報告Ⅳ. ―山形県で採集された種類と分布―. 函館大学論究 34: 71-80.
上平幸好, 2003b. 東北地方における陸棲貧毛類の調査報告Ⅴ. ―宮城県で採集された種類と分布―. 函館大学論究 34: 81-91.
上平幸好, 2003c. 東北地方における陸棲貧毛類の調査報告Ⅵ. ―福島県で採集された種類と分布―. 函館大学論究 34: 93-104.
上平幸好, 2004c. 東北地方における陸棲貧毛類の分布に関する考察. 函館短期大学紀要 30: 23-32.
南谷幸雄, 池田紘, 金子信博, 2015. 青森県の陸生大型貧毛類(ミミズ)相. 青森自然誌研究 20: 81-90.
大淵眞龍, 1938b. 本州東北部に於ける Pheretima 属に就て. 動物学雑誌 50(4): 177-178.
大淵眞龍, 1939. 日本産 Pheretima 属に於ける Genital Papillae の位置及び数の変異とその組織学的構造. 吉田博士祝賀記念誌 pp. 392-413.
大淵眞龍, 山口英二, 1947. 環形動物貧毛綱. In: 内田清之助 (ed.), 新日本動物図鑑. 北隆館, 東京. pp. 1352-1371.
Sims, R.W., Easton, E.G., 1972. A numerical revision of the earthworm genus Pheretima auct. (Megascolecidae: Oligochaeta) with the recognition of new genera and an appendix on the earthworms collected by the Royal Society North Borneo Expeditions. Biological Journal of the Linnean Society 4: 169-268.