ニセセナグロミミズ
Pheretima marenzelleri Cognetti, 1906: 780; Kobayashi, 1938a: 407; Yamaguchi, 1962: 3; 山口, 1962: 20; 上平, 1973a: 57, 1973b: 47, 2001a: 63, 2002b: 28, 2002a: 18, 2003d: 146, 2003e: 46, 2004c: 24; 中村, 1998: 26; Ishizuka, 1999a: 62; 南谷ら, 2015: 85.
Amynthas marenzelleri Sims & Easton, 1972: 235.
Pheretima marenzelli [sic] 上平, 2003a: 74.
タイプ標本
基産地:横浜
タイプ標本所在地:
形態
<外部形態>
全長 190 mm、体幅 6-7 mm、体節数 138。
全体的に真珠色で (原記載では"pearly colore evenly")、環帯は赤紫色。
剛毛は第 7 体節で 36 本、第 13 体節で 52 本、第 17 体節で 50 本。雄性孔間剛毛は 10 本。受精囊孔間剛毛は、第 6 体節で 10 本、第 9 体節で 15 本。第一背孔は第 12/13 体節間溝。
受精囊孔は 4 対で、第 5/6/7/8/9 体節間溝。第雄性孔は第 18 体節にあり、突出型で直径 5 mm。鹿児島から仙台までの 800 個体を用いた検討により、性徴が皆無のものも多いが、最大多数は 4 個の場合であり、6、2、8、12の順であった (大淵, 1936)。偶数の場合が多いが、必ずしも左右相称の位置にあるとは限らず、位置は 1 個の場合は必ず第 8 体節にあり、数が多くなるに従ってその周辺の体節にも出現する (大淵, 1936)。
<内部形態>
腸盲嚢は第 27 体節にあり、第 25/26 体節間溝まで伸びる。
精巣は第 10-11 体節にある。タイプ標本では、摂護腺は片側のみ発達していた。受精囊の導管の長さは全体の 1/3 ほど。副嚢を欠く。
Pheretima marenzelleri (=Amynthas marenzelleri) の摂護腺(原記載図) (Cognetti, 1906, fig. 5 より)
Pheretima marenzelleri (=Amynthas marenzelleri) の受精囊(原記載図) (Cognetti, 1906, fig. 6 より)
生息環境
キキョウ群落の落ち葉の下や、馬糞堆肥から採集されている (Kobayashi, 1938a)。
生態
染色体数の調査により、82、94、97、98、100、102、111、112の個体が検出されている (上平, 2003d)。
備考
山口 (1962) は和名をニセセグロミミズとしている。
Easton (1981) や Blakemore (2012b) は疑問符付きで、Blakemore (2003, 2008d) は括弧と疑問符付きでヘンイセイミミズのシノニムとした。原記載からは、著者にはシノニムであるのかどうかの判断はできない。タイプ標本の観察や、セナグロミミズなど 4 対の受精囊を持つ種群との形態形質の比較やその個体変異の再検討が必要である。
セナグロミミズとは、1) 腸盲嚢の長さ、2) 摂護腺があること、3) 受精囊の副嚢を欠くこと、4) 体節間溝にある受精囊孔が明瞭であることの 4 点で識別できるとされている (Cognetti, 1906)。また、ヨコハラトガリミミズとは、雄性孔間剛毛の本数が異なることで容易に識別できる (Yamaguchi, 1962)。
大淵 (1936) は動物学会の口頭発表の要旨を発表し、本種の多数の個体を用いて形態の変異を検討しているが、4 対の受精囊孔を持つ種の再検討を行った Ohfuchi (1937b) では本種を含めず、この論文で扱われた nipponica は大淵 (1936) の本種と同一地点で得られている。ただし、本種をシノニムとしてはいない。このため大淵氏による本種の扱いは、1) marenzelleri と nipponica は同所的に分布する別種でありOhfuchi (1937b) で marenzelleri が欠落しているだけである、2) 大淵 (1936) で報告した marenzelleri は nipponica の誤同定である、3) marenzelleri は nipponica のシノニムである、の 3 通りが考えられる。
シノニムリスト
Pheretima marenzelleri Cognetti, 1906: 780. [形態記載] (Apr 29, 1906)
Pheretima marenzelleri Kobayashi, 1938a: 407. [形態記載]
Pheretima marenzelleri Yamaguchi, 1962: 3. [形態記載]
Pheretima marenzelleri 山口, 1962: 20. [特徴の記述]
Amynthas marenzelleri Sims & Easton, 1972: 235. [記述のみ] (Sep ?, 1972)
Pheretima marenzelleri 上平, 1973a: 57 ニセセグロミミズ. [同定形質のみ] (?, 1973)
Pheretima marenzelleri 上平, 1973b: 47. [記述のみ]
Pheretima marenzelleri 中村, 1998: 26 ニセセグロミミズ. [記述のみ]
Pheretima marenzelleri Ishizuka, 1999a: 62. [記述のみ]
Pheretima marenzelleri 上平, 2001a: 63. [記述のみ]
Pheretima marenzelleri 上平, 2002b: 28. [記述のみ]
Pheretima marenzelleri 上平, 2002a: 18. [記述のみ]
Pheretima marenzelli [sic] 上平, 2003a: 74. [記述のみ]
Pheretima marenzelleri 上平, 2003d: 146. [記述のみ]
Pheretima marenzelleri 上平, 2003e: 46. [記述のみ]
Pheretima marenzelleri 上平, 2004c: 24. [記述のみ]
Pheretima marenzelleri 南谷ら, 2015: 85. [同定形質のみ]
[要検討]
大淵(1936):230, Gates(1938):217, Adachi(1955):541, Nakamura(1999):52
引用文献
Blakemore, R.J., 2003. Japanese earthworms (Annelida: Oligochaeta): A review and checklist of species. Organisms Diversity and Evolution 11: 1-43.
Blakemore, R.J., 2008d. A review of Japanese earthworms after Blakemore (2003). In: Ito MT, Kaneko N, (eds.), A Series of Searchable Texts on Earthworm Biodiversity, Ecology and Systematics from Various Regions of the World, 2nd Edition (2006) and Supplemental. COE soil Ecology Research Group, Yokohama National University, Japan. CD-ROM Publication.
Blakemore, R.J., 2012b. Japanese earthworms revisited a decade on. Zoology in the Middle East 58 suppl 4: 15-22.
Easton, E.G., 1981. Japanese earthworms: A synopsis of the Megadrile species (Oligochaeta). Bulletin of the British Museum Natural History (Zoology) 40(2): 33-65.
Cognetti, L., 1906c. Nuove specie dei generi “Pheretima” e “Tritogenia”. Atti della Reale Accademia della Scienze di Torino 41: 777-790.
Ishizuka, K., 1999a. A review of the genus Pheretima s. lat. (Megascolecidae) from Japan. Edaphologia (62): 55-80.
上平幸好, 1973a. 日本産陸棲貧毛類フトミミズ属(Genus Pheretima), 種の検索表. 函館大学論究 7: 53-69.
上平幸好,
1973b. 函館における陸棲貧毛類の生態学的研究. 生物教材 7: 43-51.
上平幸好, 2001a. 東北地方における陸棲貧毛類の調査報告Ⅰ. ―青森県で採集された種類と分布―. 函館大学論究 32: 61-72.
上平幸好, 2002a. 東北地方における陸棲貧毛類の調査報告II. ―秋田県で採集された種類と分布―. 函館大学論究 33: 15-24.
上平幸好, 2002b. 東北地方における陸棲貧毛類の調査報告III. ―岩手県で採集された種類と分布―. 函館大学論究 33: 25-34.
上平幸好, 2003a. 東北地方における陸棲貧毛類の調査報告Ⅳ. ―山形県で採集された種類と分布―. 函館大学論究 34: 71-80.
上平幸好, 2003d. 環形動物貧毛類、フトミミズ科 Pheretima 属の染色体観察. 函館大学論究 34: 145-151.
上平幸好, 2003e. 渡島半島に生息する大型貧毛類とその来歴-道南のミミズが私たちに語ること―. Oshimanography (10): 45-54.
上平幸好, 2004c. 東北地方における陸棲貧毛類の分布に関する考察. 函館短期大学紀要 30: 23-32.
Kobayashi, S., 1938a. Earthworm from Hakodate, Hokkaido. Annotationes Zoologicae Japonenses 17(3/4): 405-416.
Michaelsen, W., 1903. Die Geographische Verbreitung der Oligochaeten. Friedländer & Sohn, Berlin.
南谷幸雄, 池田紘, 金子信博, 2015. 青森県の陸生大型貧毛類(ミミズ)相. 青森自然誌研究 20: 81-90.
中村好男, 1998. ミミズと土と有機農業. 創森社, 123 p.
Sims, R.W., Easton, E.G., 1972. A numerical revision of the earthworm genus Pheretima auct. (Megascolecidae: Oligochaeta) with the recognition of new genera and an appendix on the earthworms collected by the Royal Society North Borneo Expeditions. Biological Journal of the Linnean Society 4: 169-268.
Yamaguchi H.,
1962. On earthworms belonging to the genus Pheretima, collected from the southern part of
Hokkaido. Journal of Hokkaido Gakugei University 13: 1-21.
山口英二, 1962. 北海道産の陸棲みみずについて. 生物教材の開拓 2: 16-35.