ニジイロミミズ

 フトミミズ科 > アズマフトミミズ属 > ニジイロミミズ Amynthas purpuratus (Ishizuka, 1999)

Pheretima purpurata Ishizuka, 1999b: 42; Nakamura, 1999: 59; 上平, 2006: 40, 2011: 60, ; 柳戸・柳戸, 2016: 39.

      Amynthas purpuratus Blakemore, 2003: 7, 2012b: 19; 坂井, 2004: 38; Uchida et al., 2004: 156; 内田・金子, 2004: 37; 安藤ら, 2007: 124,       2008a: 201, 2008b: 147.

  Amynthas purpurata 上平, 2016b: 21, 2020b: 12.

タイプ標本

タイプ産地:Mt. Mitake(東京都青梅市御岳山)

タイプ標本所在地:ホロタイプ 国立科学博物館(NSMT-An-249)

         パラタイプ 国立科学博物館(NSMT-An-250)

形態

<外部形態>

 全長 65–105 mm、体幅 4.0–4.5 mm。体節数 80–91。

 体色は、背面は赤菫褐色で、腹面は灰白色。背面は金属光沢を帯びる。

 剛毛数は第 7 体節で 44–52 本、第 20 体節で 44–52本。

 第一背孔は第 12/13 体節間溝に開口する。

 受精嚢孔は 2 対で、第 6/7/8 体節間溝にあり、受精嚢孔間距離は体周の約 1/2。2 タイプの性徴があり、1つ目は第 6〜8 体節の受精嚢孔に近接して、剛毛線より前に 1 個ずつの性徴を持つ。また、第 18 体節の雄性孔の前後に 1 個ずつの性徴を持つ。さらに、第 10 体節と第 18 体節の剛毛線より前に、性的斑紋を持つ。埼玉県では、環帯より前の性徴を欠くものが32%あった (柳戸・柳戸, 2016)。第7〜8体節の性徴は1〜3対であり、第8体節の腹面中央の剛毛線より前にいくつかの性徴を持つものが見られた(12%)(柳戸・柳戸, 2016)。腹面中央よりの性徴がなく、受精嚢孔に接した性徴のみがあるものが56%だった (柳戸・柳戸, 2016)。一方で、第10体節中央部の性徴を持つものは、埼玉県の個体では見つかっていない (柳戸・柳戸, 2016)。これらの変異が地理的変異であるのか、東京都でも生じているのか、検討する必要がある (南谷, 私見)。第 6/7 体節間溝から第 7 体節の剛毛線まで、褐色の有色彩紋(外部表徴)を持つ。まれにこの外部表徴を欠く (外秩父地域で、65個体中4個体、6 %) (柳戸・柳戸, 2016)環帯は第 14〜16 体節を占める。雌性孔は一つで、第 14 体節の腹面中央に開口する。雄性孔は突出型で、中型で、第 18 体節に開口する。雄性孔間距離は体周の約 1/3。しばしば雄性孔が欠如し、埼玉県外秩父地方で採集された65個体のうち、雄性孔を 1 対持つものはわずか 10 個体(15%)であり、全欠が 52 個体(80%)を占めた (柳戸・柳戸, 2016)。雄性孔を持つ個体は、第18体節の性徴を持っていたが、雄性孔を持たない個体も、この性徴を持つものもあった (柳戸・柳戸, 2016)。雄性孔の前後の性徴は、雄性孔を持つ個体のほとんどが持っていた (柳戸・柳戸, 2016)

 

<内部形態>

 隔膜は、第 5/6/7/8 体節間ではやや厚く、第 8/9/10 体節間では欠き、第 10/11/12/13/14 体節間では繊細。

 は第 15 体節から開始する。腸盲嚢は指状型で、5–6 本の小嚢に分かれ、第 27 体節に開口し、4–5 体節前方へ伸びる。

 受精嚢は 2 対で、第 7–8 体節にあり、主嚢はシャベル型で、導管を持つ。副嚢は捻れたチューブ型で、導管を持つ。生殖腺は瓶状単生殖腺。貯精嚢は背面を第 11–12 体節まで広がり、個体によっては第 10–14体節まで発達するものもいる。摂護腺は第 16–20 体節にあり、導管は雄性孔に接続する。

 

 

分布

 茨城県、栃木県、埼玉県〜山梨県、静岡県にかけて分布する(Ishizuka, 1999b; 石塚, 2001; 坂井, 2004; Uchida et al., 2004; 内田・金子, 2004; 上平, 2006, 2011, 2016b, 2020b; 安藤ら, 2007, 2008a, b; 南谷, 2016; 柳戸・柳戸, 2016)

 

 ただし、栃木県と茨城県の記録については、地理的に遠く離れすぎているのに中間地点で見つかっていないため、今後の検証が必要である(南谷, 私見)。実際に、栃木県における採集地点の周辺で、本種と言えるものは見つかっていない(南谷, 2017)

図 これまでに出版された文献に基づく、ニジイロミミズの分布確認地点。


引用文献

安藤麻菜, 菅原泉, 河原輝彦, 2007. 林相の違いによるミミズの現存量と種組成. 関東森林研究 (58): 123-126.

安藤麻菜, 山中理恵子, 米山枢, 菅原泉, 上原厳, 佐藤明, 2008a. 林齢の異なるスギ人工林におけるミミズの個体数密度と種組成. 関東森林研究 (59): 199-202.

安藤麻菜, 喜多知代, 河原輝彦, 菅原泉, 2008b. 針葉樹人工林と広葉樹二次林とのミミズ群集の比較. 東京農業大学農学集報 53(2): 144-151.

Blakemore RJ, 2003. Japanese earthworms (Annelida: Oligochaeta): A review and checklist of species. Organisms Diversity and Evolution 11: 1-43.

Blakemore, R.J., 2012b. Japanese earthworms revisited a decade on. Zoology in the Middle East 58 suppl 4: 15-22.

Ishizuka K, 1999c. New species of the genus Pheretima s. lat. (Annelida, Oligochaeta, Megascolecidae) from Tokyo, Japan- part II. species with serrate intestine caeca. Bulletin of the National Science Museum (Japan). Series A. Zoology 25(2): 101-122.

石塚小太郎, 2001. 日本産フトミミズ属 (Genus Pheretima s. lat.) の分類学的研究. 成蹊大学一般研究報告 33(3): 1-125.

上平幸好, 2006. 関東地方における陸棲貧毛類の調査報告II. ―栃木県で採集された種類と分布―. 函館短期大学紀要 32: 39-45.

上平幸好, 2011. 関東地方における陸棲貧毛類の調査報告IV. -茨城県で採集された種類と分布―. 函館短期大学紀要 37: 57-65.

上平幸好, 2016b. 中部地方における陸棲貧毛類の調査報告 V. ー静岡県で採集された種類と分布ー. 函館短期大学紀要 42: 19–29.

上平幸好, 2020b. 関東地方における陸棲貧毛類の調査報告V ー神奈川県で採集された種類と分布ー. 函館短期大学紀要 47: 11–18.

南谷幸雄, 2016. 秩父地方の大型陸棲貧毛類(ミミズ)相. 埼玉県立自然の博物館研究報告 10: 45-52.

南谷幸雄, 2017. 日光の陸棲大型貧毛類(ミミズ)相. 栃木県立博物館研究紀要 (34): 13-20.

Nakamura Y, 1999. Checklist of earthworms of Pheretima genus group (Megascolecidae: Oligochaeta) of the world. Edaphologia 64: 1-78.

坂井宏行, 2004. 神奈川県内における陸生大型貧毛類フトミミズ科の生物多様性及び分布特性の解明. 横浜国立大学環境情報学府 修士論文.

内田智子, 金子信博, 2004. 神奈川県内の2箇所の林地におけるフトミミズ類の生活史. Edaphologia 74: 35-45.

Uchida T, Kaneko N, Ito MT, Futagami K, Sasaki T, Sugimoto A, 2004. Analysis of the feeding ecology of earthworms (Megascolecidae) in Japanese forests using gut content fractionation andδ15N and δ13C stable isotope natural abundances. Applied Soil Ecology 27: 153-163.

柳戸信吾, 柳戸拓磨, 2016. 外秩父山地の大型陸棲貧毛類(ミミズ)相. 埼玉県立自然の博物館研究報告 10: 37-44.