セグロミミズ
Perichaeta divergens Michaelsen, 1892: 243; Beddard, 1895: 417.
Amyntas divergens Michaelsen, 1899d: 8; Beddard, 1900: 625.
Pheretima divergens Michaelsen, 1900: 264, 1931a: 2; 畑井, 1931: 185; 鏑木・三坂, 1936: 511; Ohfuchi, 1937b: 67, 1941b: 252; Kobayashi, 1938a: 405; 大淵, 1938b: 178, 1939: 394, 400; 小林, 1941e: 459; 大淵・山口, 1947: 1363; Adachi, 1955: 538, 543; Yamaguchi, 1962: 5; 山口, 1962: 21; 安立・大野, 1964: 403; 中村, 1965: 115, 122, 1998: 26; 加藤, 1972: 554; 上平, 1973a: 55, 1973b: 47, 2002a: 17, 2010: 38, 2011: 60, 2012: 43, 2013: 43, 2014a: 29, 2014b: 39, 2015a: 41, 2015b: 51, 2016a: 13; 大野, 1981a: 93, 1984: 993; 落合, 1998: 27; Ishizuka, 1999a: 58; 南谷ら, 2015: 84.
Amynthas divergens divergens Sims & Easton, 1972: 235.
Amynthas divergens 上平, 2016b: 21, 2017a: 59, 2017b: 69, 2018a: 32, 2020a: 2, 2020b: 12; 南谷, 2017: 14.
Pheretima sp. 第6種 山口, 1930: 55.
Pheretima sp. 第7種 山口, 1930: 55.
Pheretima sp. 畑井, 1931: 195.
タイプ標本
基産地:日本(詳細不明)
タイプ標本所在地:ベルリン動物学博物館(標本ナンバー 2116).
形態
<外部形態>
全長 117-239 mm (116-170 [加藤, 1972], 120-220 [Ohfuchi, 1937b], 120-239 [中村, 1965])、体幅 4.5-6 mm (4.5-6 [Ohfuchi, 1937b]、5-6 [中村, 1965])、体節数 84-128 (84-128 [Ohfuchi, 1937b]、109-128 [中村, 1965])。
体色は背面は暗褐色 (Ohfuchi, 1937b) または黒色 (畑井, 1931) 、青紫色を帯びた褐色で後方に移るに従い紅紫色を帯びた褐色 (中村, 1965)。環帯は紫がかった褐色 (Ohfuchi, 1937b)、もしくはチョコレート色 (中村, 1965)。腹面は明灰色 (Ohfuchi, 1937b) または灰白色 (畑井, 1931)。
剛毛は、各体節 55 本程度で (Michaelsen, 1892)、第 7 体節で 41-43 本、第 20 体節で 49-54 本 (Ohfuchi, 1937b)。第一背孔は第 12/13 体節間溝。
環帯は第 14-16 体節の 3 体節を占め、剛毛や体節間溝を欠く。受精囊孔は第 5/6/7/8/9 体節間溝の後ろ側の体節に開口し、受精囊孔間距離は体周の 1/3 弱程度 (Ohfuchi, 1937b)。受精囊孔は半月形で、直径 0.4-0.6 mm (Ohfuchi, 1937b)。雄性孔は第 18 体節の剛毛線上にあるが (Ohfuchi, 1937b)、雄性孔を欠く個体が多い (鏑木・三坂, 1936; Ohfuchi, 1937b; 山口, 1962; 中村, 1965)。この時、雄性孔を 1 対保有しているものは 280 個体中 38.9 %、両側とも欠くものは 43.2 % であった (Ohfuchi, 1937b)。また、旭川では 30 個体中全欠は 47 %、両側保有は 33 % であった(大淵, 1938a)。雄性孔の上縁は体表面から少し盛り上がり、上端は平たい (Ohfuchi, 1937b)。雄性孔の直径は性徴と同様 0.5 mm (Ohfuchi, 1937b)。雄性孔間剛毛は 7-10 本 (7-10 [中村, 1965]、8 [Ohfuchi, 1937b])。性徴は剛毛線の前後両方に出現し、第 5-10 体節と第 17-20 体節に出現するが、個体変異が大きい (Ohfuchi, 1937b)。性徴は、各体節に最大 3 対であるが、半数の個体は受精囊孔域の性徴を全て欠如していた (Ohfuchi, 1937b)。受精囊孔域に性徴がある場合は、大半は第 6-10 体節 (6-9 [Ohfuchi, 1937b]、6-10 [山口, 1965])の剛毛線より前に性徴があり、剛毛線の前後両方にある場合は少ない (Ohfuchi, 1937b)。また、第 7-9 体節に左右それぞれ1個ずつの個体が最大多数を占めた (Ohfuchi, 1937b)。受精囊孔域には、1-3 対の性徴がある (中村, 1965)。性徴の直径は 0.5-0.6 mm (大淵, 1939)。性徴は体表面からやや窪み、室状 (Ohfuchi, 1937b; 大淵, 1939)。雄性孔域の性徴は、第 17-20 体節にあり、受精囊孔域に性徴を持つものの場合、第 17-18 体節に 1 対の性徴を持つことが多かった (Ohfuchi, 1937b)。
<内部形態>
腸管は第 15 体節から始まる。腸盲嚢は鋸歯状型で、第 27 体節に開始し、第 22 体節まで伸びる (Ohfuchi, 1937b)。腸盲嚢の腹側には10本ほどの鋸歯状突起がある (Ohfuchi, 1937b)。
受精囊は 4 対で、第 6-9 体節に位置する。主嚢の嚢状部は心臓型で、やや平たい。長さ 2 mm、幅 1.5 mm、導管は長さ 0.6 mm (Ohfuchi, 1937b)。副嚢を持つことは少ないが、副嚢があってもとても小さいか痕跡的。副嚢は管状で、先端が球状に膨れる (中村, 1965)。受精囊を欠くこともあり、特に第 6 体節の受精囊を欠くことが多い (Ohfuchi, 1937b)。貯精嚢は第 11-12 体節に存在し、比較的発達が悪い (Ohfuchi, 1937b)。摂護腺が発達している場合は、第 16-20 体節の 4 体節分を占めるが、発達が悪い場合が多く、摂護腺を欠いて導管のみが存在する場合や、導管すら欠いている場合もある (Ohfuchi, 1937b)。
Pheretima divergens (=Amynthas divergens) の性徴の分布 (Ohfuchi, 1937b p. 69, fig. 11 より)
Pheretima divergens (=Amynthas divergens) の受精囊形態の変異 (Ohfuchi, 1937b p. 102, fig. 24 より)
Pheretima divergens (=Amynthas divergens) の受精囊形態の変異 (Ohfuchi, 1937b p. 103, fig. 25 より)
Pheretima divergens (=Amynthas divergens) の摂護腺や腸盲嚢の変異 (Ohfuchi, 1937b p. 100, fig. 23 より)
Pheretima divergens (=Amynthas divergens) の性徴の分布パターン (Ohfuchi, 1937b p. 73, fig. 12, p. 79 fig. 15, p. 80 fig. 16 より)
Pheretima divergens (=Amynthas divergens) の雄性孔周辺と性徴分布パターン (Ohfuchi, 1937b p. 83, fig. 18 より)
分布
北海道から本州、九州で分布が報告されている日本固有種。四国では全く記録されていない。なお、中国地方では、米子における記録のみ報告されており (小林, 1941b)、分布の空白地帯が存在するのかどうか、今後の検討が必要である。
九州では、福岡県と佐賀県、鹿児島県では広く分布が確認されているが (上平, 2008, 2010, 2015b)、同様に広範な調査が行われた宮崎県では本種の分布は全く報告されていない (上平, 2004b)。大分県では、わずか 1 地点でのみ確認されている (上平, 2012)。
山梨県では釜無川と富士川を結ぶ線の東側でしか発見出来ないことが報告され、これらの河川が分布の障壁になっている可能性が指摘されているが (上平, 2013)、かつてこの川よりも西側の身延山や愛知県新城市で記録されていることや (小林, 1941b)、岐阜県では比較的広く分布が確認されていることから (上平, 2004a)、今後の調査が必要である。
栃木県内では、平野から低山帯に分布する (加藤, 1972)。
海外では、中国から記録されているが (Michaelsen, 1931a)、今後の詳細な検討が必要である。
図:これまでに出版された文献に基づく、セナグロミミズの分布確認地点
生息環境
主に畑や草むら、肥沃な原野 (畑井, 1931)、日本庭園や農耕地 (Kobayashi, 1938a)、荒れ地や運動場の片隅 (Ohfuchi, 1937b) に生息する。水田の畦にも生息し、水文環境が変化するために水田に大きな被害を与えることがある (大淵, 1938a)。ゴミ溜めの下からはあまり見出されない (畑井, 1931)。
函館では、黄褐色度には生息していない (上平, 1973b)。
洞窟内の入口付近から採集された記録があるが、洞窟内に生息しているのではなく、外部から侵入したと考えられる (Ohfuchi, 1941b)。
生態
深い縦穴を掘って生活する (加藤, 1972)。地中に深く潜る深層性のミミズであるが、道路の側溝などではコンクリートのため潜入できず、落葉堆の下などから簡単に採集できる (大野, 1984)。
11月に成体・亜成体・幼体が混在して採集されており、越年性であると考えられる (落合, 1998)。
備考
畑井 (1931) は和名としてセナクロミミズ (背黒ミミズ) を提唱した。鏑木・三坂 (1936) はセグロミミズとしているが、誤植・勘違い・新称の区別は不明である。その後は主にセグロミミズが用いられている (大淵・山口, 1947, 1965; 山口, 1962; 中村, 1998; 石塚, 2001)。
Easton (1981) は本種をヘンイセイミミズのシノニムとし、Blakemore (2003, 2008d, 2012b) はこの見解に従っている。ただし、Ohfuchi (1937b) による再検討のように、性徴の分布や雄性孔の保有率、腸盲嚢の形態が大きく異なるため、別種であると考えられる (南谷, 私見)。
4 対の受精囊を持つ他の種とよく似ているが、1) 多少細長く見え、2) 体色は背面は青紫色を帯びた褐色で、後方に移るに従い紅紫色を帯びた褐色である、3) 多数の小さな性徴を持ち、その配置には著しい変異があり、4) 雄性孔を欠く個体の割合がかなり多い (山口, 1962)。
なお、Adachi (1955) が本種としたものの雄性孔域の性徴分布を示した図は、既知の本種の個体変異範囲からは逸脱しており、別種である可能性がある。このため、Adachi (1955) が示した形態変異のすべてが本種のものとは考えにくい。
シノニムリスト
Perichaeta divergens Michaelsen, 1892: 243.
Perichaeta divergens Beddard, 1895: 417.
Amyntas divergens Michaelsen, 1899d: 8 (syn. ?fuscata, ?campestris, ?kamakurensis, ?parvula, ?heteropoda, ?obscura, ?scholastica, ?decimpapillata, ?flavescens, ?producta ?micronaria). [特徴記述] (?, 1899)
Amyntas divergens Beddard, 1900: 625 (syn. fuscata, heteropoda, obscura, scholastica, micronaria, grossa).
Pheretima divergens Michaelsen, 1900: 264.
Pheretima sp. 第6種 山口, 1930: 55.
Pheretima sp. 第7種 山口, 1930: 55.
Pheretima divergens 畑井, 1931: 185 セナクロミミズ (新称). [同定形質のみ]
Pheretima sp. 畑井, 1931: 195 ゴイシミミズ (新称). [同定形質のみ]
Pheretima divergens Michaelsen, 1931a: 2 (syn. divergens var. yunnanensis). [記述のみ]
Pheretima divergens 鏑木・三坂, 1936: 511 セグロミミズ. [同定形質のみ]
Pheretima divergens Ohfuchi, 1937b: 67. [形態記載]
Pheretima divergens Kobayashi, 1938a: 405. [形態記載]
Pheretima divergens 大淵, 1938a: 1993. [形態記載]
Pheretima divergens 大淵, 1938b: 178. [記述のみ]
Pheretima divergens 大淵, 1939: 394, 400. [記述のみ]
Pheretima divergens Ohfuchi, 1941b: 252. [記述のみ]
Pheretima divergens 小林, 1941c: 260. [記述のみ]
Pheretima divergens 小林, 1941g: 513. [記述のみ]
Pheretima divergens 小林, 1941e: 459. [記述のみ]
Pheretima divergens Adachi, 1955: 538, 543 (part) (syn. decempapillata [sic], flavescens, kamakurensis, producta, scholastica). [形態記述]
Pheretima divergens Yamaguchi, 1962: 5 (syn. sp. 7 th Yamaguchi, 1930: 55). [形態記載]
Pheretima divergens 山口, 1962: 21 セグロミミズ (syn. sp. 第7種 山口, 1930: 55). [同定形質のみ]
Pheretima divergens 安立・大野, 1964: 403.
Pheretima divergens 中村, 1965: 115, 122 セグロミミズ. [記述のみ]
Pheretima divergens 加藤, 1972: 554 セグロミミズ. [同定形質のみ] (Apr 25, 1972)
Amynthas divergens divergens Sims & Easton, 1972: 235. [記述のみ] (Sep ?, 1972)
Pheretima divergens 上平, 1973a: 55 (syn. decimpapillata, flavescens, kamakurensis, producta, scholastica) セグロミミズ. [同定形質のみ] (?, 1973)
Pheretima divergens 上平, 1973b: 47. [記述のみ]
Pheretima divergens 大野, 1981a: 93. [記述のみ] (Mar, 1981)
Pheretima divergens 大野, 1984: 993. [記述のみ]
Pheretima divergens 落合, 1998: 27 セグロミミズ. [同定形質のみ] (Aug. 1998)
Pheretima divergens 中村, 1998: 26 セグロミミズ. [記述のみ]
Pheretima divergens Ishizuka, 1999a: 58 (syn. decempapillata [sic], flavescens, kamakurensis, parvula, producta, scholastica).
Pheretima divergens 上平, 2001a: 63. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2001b: 75. [記述のみ]
Pheretima divergens上平, 2002a: 17. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2002b: 27. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2003a: 74. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2003b: 84. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2003c: 96. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2003e: 46. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2004a: 82. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2004c: 24. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2006: 40. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2007: 19. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2008: 32. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2010: 38. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2011: 60. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2012: 43. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2013: 43. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2014a: 29. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2014b: 39. [記述のみ]
Pheretima divergens 南谷ら, 2015: 84. [同定形質のみ]
Pheretima divergens 上平, 2015a: 41. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2015b: 51. [記述のみ]
Pheretima divergens 上平, 2016a: 13. [記述のみ]
Amynthas divergens 上平, 2016b: 21. [記述のみ]
Amynthas divergens 上平, 2017a: 59. [記述のみ] (Mar, 2017)
Amynthas divergens 上平, 2017b: 69. [記述のみ] (Mar, 2017)
Amynthas divergens 南谷, 2017: 14. [記述のみ]
Amynthas divergens 上平, 2018a: 32. [記述のみ] (Mar, 2017)
Amynthas divergens 上平, 2020a: 2. [記述のみ]
Amynthas divergens 上平, 2020b: 12. [記述のみ]
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