オオフトミミズ
Perichaeta grossa Goto & Hatai, 1898: 75.
Pheretima grossa Michaelsen, 1900: 268; 畑井, 1931: 186; Ohfuchi, 1937b: 33; 大淵, 1938b: 178, 1939: 402; 小林, 1941c: 260; 上平, 1973a: 56; Ishizuka, 1999a: 59.
Metaphire grossa Sims & Easton, 1972: 239.
タイプ標本
基産地:Kawaguchi (Prov. Kai) (現:山梨県富士河口町河口湖)
タイプ標本所在地:不明
形態
<外部形態>
体長 223-332 mm で平均 263 mm (Ohfuchi, 1937b)、体幅 8-10 mm (Goto & Hatai, 1898; Ohfuchi, 1937b)、体節数 103-141 (Goto & Hatai, 1898; Ohfuchi, 1937b)。
体色は暗褐色で、腹面は明灰色 (Ohfuchi, 1937b)。
剛毛は受精嚢孔域で 53-57 本、より後方では 60-70 本、雄性孔間剛毛は 9 本 (Goto & Hatai, 1898) もしくは 11-12 本 (Ohfuchi, 1937b) 。第一背孔はタイプ標本では第 13/14 体節間溝 (Goto & Hatai, 1898)、八溝山では第 12/13 体節間溝、仙台では第 11/12 体節間溝 (Ohfuchi, 1937b)。
環帯は第 14-16 体節を占め、剛毛を欠く。雄性孔は第 18 体節にあり、突出型。第 19-21 体節の剛毛線より後ろに 1 対の性徴が存在する。なお、八溝山では第 19-22 体節に性徴があり、幼体の中には第 19-24 体節に性徴がある個体もあった (Ohfuchi, 1937b)。性徴の直径は 0.9 mm (Ohfuchi, 1937b)。性徴は体表面から深く窪んでいる (Ohfuchi, 1937b)。受精嚢孔は 4 対で、第 5/6/7/8/9 体節間溝にあり、受精嚢孔域の性徴を欠く。受精囊孔間距離は、体周の 1/5-1/6 程度 (Ohfuchi, 1937b)。
<内部形態>
隔膜は 5/6/7/8、10/11/12/13/14/15 は厚く、8/9/10 は欠く。腸管は第 15 体節から開始する。腸盲嚢は鋸歯状型で第 27 体節に存在し、極めて長く、前方へ 6 体節分伸びる。Ohfuchi (1937b) は 4 体節分としている。最終心臓は第 13 体節。
受精嚢は 4 対で、第 6-9 体節に存在する。受精囊の主嚢は長卵形で、長さ 5.5 mm、幅 2.8 mm (Ohfuchi, 1937b)。導管は長さ 3.1 mm (Ohfuchi, 1937b)。受精嚢の副嚢は主嚢よりも長く、複雑に曲がりくねる。卵巣は大きく、卵嚢を欠く。精巣は第 10-11 体節に、貯精嚢は第 11-12 体節に存在し、両者とも大きい。摂護腺は小嚢に別れ、第 15-19 体節を占める。なお、Ohfuchi (1937b) は摂護腺は小さく扇型で、わずか 1 体節分を占めるのみと述べている。第 19-22 体節には胞状生殖腺があるが、あまり発達していない (Ohfuchi, 1937b)。
Pheretima grossa (=Amynthas grossus) の雄性孔周辺と受精囊 (Ohfuchi, 1937b p. 36, fig. 1 より)
Pheretima grossa (=Amynthas grossus) の雄性孔と性徴 (Ohfuchi, 1937 p. 36, fig. 1 より)
Pheretima grossa (=Amynthas grossus) の摂護腺と生殖腺 (Ohfuchi, 1937 p. 37, fig. 2 より)
Pheretima grossa (=Amynthas grossus) の腸盲嚢 (Ohfuchi, 1937 p. 37, fig. 2 より)
分布
宮城県から山梨県にかけて記録されている。
タイプ標本が得られて以降30 年ほど記録されていなかったが、2 番目の標本が仙台市八木山で、続いて福島・茨城・栃木県境にある八溝山で得られている (Ohfuchi, 1937b)。なお、これまでに得られている記録は他に見当たらない。
生息環境
主に丘陵や山地で発見される (Ohfuchi, 1937b)。
生態
粘土や土壌の層に深い孔道を形成する (Ohfuchi, 1937b)。しばしば、地面を這っているものを見つけられる (Ohfuchi, 1937b)。
9-10 月に幼体が得られているため、越冬すると考えられる (Ohfuchi, 1937b)。
腸管内には多くの枯葉断片や繊維、植物質が土と混在していた (Ohfuchi, 1937b)。
備考
基産地はKawaguchi (Prov. Kai) であり(Goto & Hatai, 1898)、命名者の一人である畑井 (1931) は甲州河口湖附近と述べており、現在の富士河口町河口湖周辺である。
畑井 (1931) は和名としてオオフトミミズ(大フトミミズ)を提唱している。
イイヅカミミズとの識別点については、Ohfuchi (1937b) は以下のように指摘している。1) 性徴:性徴の数は同定形質としては不適である。ただし、性徴の直径はオオフトミミズでは 0.9 mm、イイヅカミミズは 1.0 mm であり、イイヅカミミズの方が大きい。性徴の位置は、オオフトミミズは雄性孔のラインよりも内側に入るのに対して、イイヅカミミズでは雄性孔と同じラインに並ぶ。2) 胞状生殖腺:オオフトミミズの胞状生殖腺は発達が悪く、イイヅカミミズよりも小さい。3) 摂護腺:オオフトミミズの摂護腺は、半球状もしくは扇型で、1-4 体節分を占めるが、イイヅカミミズではとても大きくて 7 体節分を占める。4) 貯精嚢:オオフトミミズの貯精嚢は、小さくて発達が悪い、5) 受精囊:オオフトミミズの受精囊は細長く(長さ 5.5 mm、幅 2.8 mm)、イイヅカミミズ(長さ 4-5 mm、幅 3.5-3.8 mm)は太短い。
なお、上記のOhfuchi (1937b) の検討に用いられたオオフトミミズは八溝山(福島・茨木・栃木県境)と八木山(宮城県仙台市)で採集されたものである。これが本当に河口湖周辺で採集されたオオフトミミズと一致するのか、疑問である。
このため、タイプ産地である河口湖町で採集された個体を用いた形態学的検討が、本種の定義を明らかにする出発点になるだろう。
Easton (1981) は疑問符付きでコクショクミミズ fuscatus のシノニムとし、Blakemore (2003, 2008d, 2012b) も同様の見解をとっている。コクショクミミズは環帯以前にも性徴を持ち、体サイズも異なることから、別種であると考えられる。
一方で、上記で述べたようにイイヅカミミズとは、分類学的にはそれほど重要ではない形質で識別されているため、個体変異や地理的変異などの形態学的手法や、分子系統学的手法を含む再検証が必要である (南谷, 私見)。今後再検証されるまでは別種として扱うべきであろう (南谷, 私見)。
シノニムリスト
Perichaeta grossa Goto & Hatai, 1898: 75. [形態記載]
Pheretima grossa Michaelsen, 1900: 268. [同定形質のみ]
Pheretima grossa 畑井, 1931: 186 オオフトミミズ (新称). [同定形質のみ]
Pheretima grossa Ohfuchi, 1937b: 33. [形態記載]
Pheretima grossa 大淵, 1938b: 178. [記述のみ]
Pheretima grossa 大淵, 1939: 402. [記述のみ]
Pheretima grossa 小林, 1941c: 260. [記述のみ]
Metaphire grossa Sims & Easton, 1972: 239. [記述のみ] (Sep ?, 1972)
Pheretima grossa 上平, 1973a: 56 オオフトミミズ. [同定形質のみ] (?, 1973)
Pheretima grossa Ishizuka, 1999a: 59. [記述のみ]
参考文献
Blakemore, R.J., 2003. Japanese earthworms (Annelida: Oligochaeta): A review and checklist of species. Organisms Diversity and Evolution 11: 1-43.
Blakemore, R.J., 2008d. A review of Japanese earthworms after Blakemore (2003). In: Ito MT, Kaneko N, (eds.), A Series of Searchable Texts on Earthworm Biodiversity, Ecology and Systematics from Various Regions of the World, 2nd Edition (2006) and Supplemental. COE soil Ecology Research Group, Yokohama National University, Japan. CD-ROM Publication.
Blakemore, R.J., 2012b. Japanese earthworms revisited a decade on. Zoology in the Middle East 58 suppl 4: 15-22.
Easton, E.G., 1981. Japanese earthworms: A synopsis of the Megadrile species (Oligochaeta). Bulletin of the British Museum Natural History (Zoology) 40(2): 33-65.
Goto, S., Hatai, S., 1898. New or imperfectly known species of earthworms. No. 1. Annotationes Zoologicae Japonenses 2: 65-78.
畑井新喜司, 1931. みみず. 改造社. 218 pp. (復刻 みみず. 1980年
サイエンティスト社より)
Ishizuka, K., 1999a. A review of the genus Pheretima s. lat. (Megascolecidae) from Japan. Edaphologia (62): 55-80.
上平幸好, 1973a. 日本産陸棲貧毛類フトミミズ属(Genus Pheretima), 種の検索表. 函館大学論究 7: 53-69.
小林新二郎, 1941c. 四国、中国、近畿及中部諸地方の陸棲貧毛類に就て. 動物学雑誌 53(5): 258-266.
Michaelsen, W., 1900. Oligochaeta. Das Tierrich 10: 1-575.
Ohfuchi, S., 1937b. On the species possessing four pairs of spermathecae in the genus Pheretima together with the variability of some external and internal characters. Saito Ho-on Kai Museum of Natural History, Research Bulletin 12: 31-136.
大淵眞龍,
1938b. 本州東北部に於ける Pheretima 属に就て. 動物学雑誌 50(4): 177-178.
大淵眞龍, 1939. 日本産 Pheretima 属に於ける Genital Papillae の位置及び数の変異とその組織学的構造. 吉田博士祝賀記念誌 pp. 392-413.
Sims, R.W., Easton, E.G., 1972. A numerical revision of the earthworm genus Pheretima auct. (Megascolecidae: Oligochaeta) with the recognition of new genera and an appendix on the earthworms collected by the Royal Society North Borneo Expeditions. Biological Journal of the Linnean Society 4: 169-268.